クロスオーバー周波数:fgcを高くすると応答速度が速くなるということが多くの書籍に書いてあり、既知の事実である。とは言え、きちんと確認したことがなかったので、今回はLTspiceでシミュレーションを実施し、応答速度の変化を実際に確認してみる。また、その他にも、同じクロスオーバー周波数でもゲイン特性を変えた場合、位相余裕を変えた場合についても確認してみる。
① fgc:10kHz、位相余裕:59度(これを基準として比較)
まずは、比較対象としてクロスオーバー周波数fgc:10kHz、位相余裕:60度の降圧コンバータの応答速度を確認してみる。
以下にScilabで設計した降圧コンバータ制御系の一巡伝達関数特性を示す。

LTspiceで負荷変動させたときの出力電圧の応答時間を確認する。シミュレーションモデルは以下のように、負荷抵抗を理想スイッチで変化させ負荷変動を発生させる。今回は、出力電圧:70Vとし、負荷抵抗を7Ω→3.5Ω(700W→1400W)に負荷変動させる。

負荷変動時の出力電圧のシミュレーション結果を以下に示す。出力電圧は、66.9Vまで低下し、約1.3msで収束している。

② fgc:3kHz、位相余裕:59度(クロスオーバー周波数を下げた)
上記の基準とした制御設計から、Type3補償器を調節してクロスオーバー周波数を低下させた。クロスオーバー周波数fgc:3kHz、位相余裕:59度として、負荷変動時での出力電圧を確認してみる。
以下にScilabで設計した降圧コンバータ制御系の一巡伝達関数特性を示す。

負荷変動時の出力電圧のシミュレーション結果を以下に示す。出力電圧は、66.5Vまで低下し、約1.8msで収束している(fgc:10kHz時は66.9Vまで低下し、約1.3msで収束)。
出力コンデンサが大きいため変化量が小さいが、クロスオーバー周波数が低下したことで、出力電圧のザグが大きくなり、収束も遅くなることが確認された。

③ fgc:10kHz、位相余裕:59度(ゲイン特性を大きく変化させた)
クロスオーバー周波数基準fgc:10kHz、位相余裕:59度は同じだが、①基準と比較してゲイン特性を変化させた場合での出力電圧の応答速度を確認する。
以下にScilabで設計した降圧コンバータ制御系の一巡伝達関数特性を示す。青線が今回の周波数特性で、黒線が①基準の周波数特性である。

負荷変動時の出力電圧のシミュレーション結果を以下に示す。出力電圧は、66.9Vまで低下し、約4.0msで収束している(①基準では66.9Vまで低下し、約1.3msで収束)。
①基準と比較して、出力電圧のザグは同じだが、収束時間が大幅に遅くなった。

④ fgc:10kHz、位相余裕:40度(位相余裕を減少させた)
クロスオーバー周波数基準fgc:10kHzは同じだが、①基準と比較して位相余裕を減少させた場合での出力電圧の応答速度を確認する。
以下にScilabで設計した降圧コンバータ制御系の一巡伝達関数特性を示す。青線が今回の周波数特性で、黒線が①基準の周波数特性である。

負荷変動時の出力電圧のシミュレーション結果を以下に示す。出力電圧は、66.9Vまで低下し、約1.3msで収束している(①基準では66.9Vまで低下し、約1.3msで収束)。
位相余裕を40度にしたが、①基準と比較して、出力電圧のザグも収束時間も変化なかった。

⑤ fgc:10kHz、位相余裕:25度(位相余裕を減少させた)
クロスオーバー周波数基準fgc:10kHzは同じだが、①基準と比較して位相余裕を減少させた場合(25度)での出力電圧の応答速度を確認する。
以下にScilabで設計した降圧コンバータ制御系の一巡伝達関数特性を示す。青線が今回の周波数特性で、黒線が①基準の周波数特性である。

負荷変動時の出力電圧のシミュレーション結果を以下に示す。出力電圧は、66.9Vまで低下し、約1.3msで収束している(①基準では66.9Vまで低下し、約1.3msで収束)。
位相余裕を25度にしたが、①基準と比較して、出力電圧のザグも収束時間も変化なかった。しかし、不安程度が増したため、負荷変動後の出力電圧には若干の揺らぎが観測された。
位相余裕を低下させることで、負荷変動時の電圧振動が観測できるかと推測していたが、今回の条件では確認できなかった。
